脳梗塞後に肩が痛む方必見です

脳梗塞を発症すると半身の麻痺が残ります。その片麻痺がある方の中には、肩の痛みに悩まされる方も大勢いらっしゃるようです。片麻痺がある方の肩の痛みは二次的合併症で最も多いとされ、報告によれば40~80%が少なからず肩の痛みがあるとのことです。この肩の痛みがあることで、日常生活に支障をきたしたり、あるいは生活の質を落としかねません。したがってリハビリでは麻痺の改善の中で、肩に痛みが出ないように常に対策を考え、予防に講じる必要があります。さらに、麻痺側の管理方法や動作の指導方法を徹底し、患者を取り巻く環境作りを考えましょう。

【痛みの原因】

1.肩甲上腕関節包炎

肩甲骨と上腕をつないでいる関節を包んでいる軟部組織の炎症のこと。多くは脳梗塞後の麻痺があることで、動かさないことや固めてしまっていることが原因となります。動かさないことで関節包が癒着してしまいます。癒着してしまうと、肩や腕を動かしたときに痛みを有してしまいます。痛みの程度はさまざまであり、安静時や夜間に痛みを伴うこともしばしばあります。長くこの状態が続いてしまうと、関節可動域に制限をきたしてしまい、とくに外転(腕を横に広げる動き)や外旋(掌を外側に向ける動き)で制限が強く出てしまいます。

2.肩甲関節周囲炎

この変性の起こりやすい部位が回旋筋腱板といわれています。回旋筋腱板とは、肩甲下筋、棘上筋、棘下筋、小円筋といった肩関節の周囲をとりまいている筋肉のことを指します。片麻痺の肩関節周囲炎は、棘上筋腱の損傷や炎症を起点としての周囲の粘液包炎、腱炎と広がるパターンが多くみられます。この部位は脳梗塞の片麻痺による筋緊張の亢進から、負荷が最もかかる部位となり、肩の関節の間に筋肉が挟まれてしまい、圧迫を受けてしまいます。同時に腱や骨の変化が容易に波及するために、炎症、変性、石灰沈着、断裂なども起こしやすいといわれています。

3.亜脱臼

脳卒中後の手や腕の麻痺の障害が重いほど亜脱臼の合併の頻度は高くなります。亜脱臼とは、完全に関節が外れているわけではなく、部分的に接触しているところがあることをいいます。脳梗塞後の片麻痺での亜脱臼は、関節に関与する筋が麻痺してしまい、関節を固定する筋肉や靭帯などが伸びてしまうことで生じている脱臼となります。亜脱臼そのものが麻痺側の肩の痛みに直接原因にはならないと考えられています。麻痺している腕を動かすと、亜脱臼している関節に筋や軟部組織を挟み込んでしまうことが痛みの原因となります。

【片麻痺のある人の??%に肩痛が】

片麻痺患者の患側肩痛は片麻痺に最も多い二次的合併症ともいえます。(発症度は40~80%ともいわれています)。痛みの発症の多くは「関節の機能不全」という背景があります。患側肩痛は患側上肢の機能回復過程の重大な阻害因子になる為、結果的に関節可動域制限を伴った凍結肩(五十肩)に類する機能障害を残すことが多く、その上痛みが長引くとADLにとどまらず、QOLの低下に大きく影響をあたえます。患側肩痛に対しては、回復期間中にあっては絶えず予防対策を講じる事、早期に対処して機能障害を残さない事、患手の管理や環境への配慮が重要です。

【片麻痺のある人の肩痛の原因】

3つの片麻痺患側肩痛の原因を考えます。

①関節の動きは、肩甲上腕関節の他に、上腕上方関節や鎖骨、胸骨、肋骨等の動きと上腕二頭筋長頭腱機構とを含んだ複合運動であるが、この運動機構を支える筋系に完全不完全麻痺があるため、いわゆる肩甲上腕リズムが基本的に障害されやすい点

②関節周囲筋は、筋活動の不全と自律神経系の失調とにより循環不全の状態です。そのため、関節周囲組織の炎症に対する抵抗力は減弱し、容易に線維性変性に移行しやすい状態にある点

③肩手症候群がしばしば合併する点

以上の3点を考えます。

多くは麻痺の為の寡動もしくは不動に起因する癒着性関節包炎で、関節周囲炎を伴っています。肩甲上腕関節の癒着性変化と肩の痛みとの間には強い相関があると考えられています。痛みの程度は様々で他運動の際に痛む程度のもの安静時痛があるもの、時には夜間睡眠障害が起こるほどの自発痛があるものまであります。可動域制限は全可動域に及びますが、特に肩外転と外旋に制限が強いのが癒着性変化の特徴です。通常は腱炎、腱鞘炎、粘液胞炎、腱板損傷などにわけて考えるが片麻痺の場合はその臨床像が連鎖的に複数の原因疾患の集合症状を呈するので、臨床上は大きく肩甲関節周囲炎として取り扱うのが実践的です。肩関節周囲組織は加齢に伴って、ある程度は進行性の退行変性が認められるようになます。この変性が起こりやすいのが回旋腱板といわれています。

腱板の主な構成要素は棘上腱です。その棘上腱が上腕骨大結節に付着する終末付近には、肩甲動脈と肩甲下動脈の枝と、上腕骨の回旋動脈からの枝とが吻合する血管に富む危険区域と呼ばれる部位があります。この部位は緊張と負荷が最もかかる部位で、肩峰と上腕骨頭との間に挟まれているため圧迫を受けやすく同時に腱、骨の変化が容易に波及するため、炎症、変性、石灰沈着、断裂などを起こしやすいです。運動時痛のある患側肩関節の約95%に棘上筋腱断裂を、100%に腱板の変性がみられます。さらに上腕の支持性が保たれている時にはこの危険区域の循環状態は良好だが、支持性が失われて下垂肢の状態になると腱板は牽引されて循環不全がおきて虚血状態となり炎症が起こりやすくなります。片麻痺の肩関節周囲炎は棘上筋腱の損傷や、炎症を起点として周囲の粘液胞炎、腱炎と広がるパターンが多いです。

また、患側肩痛の患者の超音波検査をすると、長頭腱の浮腫は麻痺側と健側とを比べると麻痺側が多く、長頭腱の炎症を示唆する圧痛も長頭腱部に多くみられます。上腕二頭筋長頭腱とその腱鞘は解剖学上、絶えず機械的な刺激にさらされていることと、関節包自体の傷害の影響を直接うけることから腱炎、腱鞘炎を起こしやすく、肩関節周囲炎の起点となりやすいです。

片麻痺の患側肩関節は上肢機能の障害が重いほど亜脱臼合併の頻度は高くなります。亜脱臼そのものが患側肩痛の直接原因にはならないという考え方がありますが、一方で両者はおおいに関係があるとする報告もあります。亜脱臼を伴う患側肩関節周囲炎といわれている人はそれにともなって、上肢機能障害が重いことは臨床上で多くみられます。

【痛みを予防するためには麻痺側を管理すること】

発症早期から患側肩関節の他動的可動域訓練と良肢位の保持とをおこない、患手管理をきちんとすることが患側肩痛にたいしてとても大事です。関節可動域訓練を行う前は、関節周囲筋の緊張を和らげる目的で療法を施すことが重要です。

他動的関節可動域訓練時の注意事項として、

・上腕骨骨頭が関節窩から逸脱しないようにすること

・肩外転を行う場合は80度をこえたら肩外旋位にしておこなうこと

・訓練では痛みを起こさせない範囲での可動域訓練を行う

・肩関節周囲筋はすべて発痛起因組織になりえるので筋の伸張や関節運動は性急に行わず、ゆっくりと時間をかけて行うこと

また、他にも患側肩関節疼痛に対する対策として、

・注射療法

・肩甲上神経ブロック

・肩甲下筋モーターポイントブロック

・アームスリング

・鍼治療とTENS

が挙げられます。

本文でも書きましたが肩痛は生活の豊かさにとても影響をあたえます。きちんとした治療や、予防、対策をとっていただきたいと思います。

片麻痺後の肩痛に対するリハビリ

まず、脳卒中発症早期の関節可動域訓練を実施します。他動的に行い、良い姿勢を保持できるように管理も行います。これにより麻痺側の肩痛を予防していくことがまずは大事になってくるでしょう。緊張が高ければ、温熱刺激などを与えてから行うこともあります。関節可動域訓練時の注意点としては、訓練にて痛みを起こさないよう、関節の構造を理解したうえで行うことです。むやみやたらに動かすと、逆に頭痛を引き起こす原因となる可能性があるため、十分配慮が必要です。しかし、肩だけ動かしていても亜脱臼や関節の状態が改善するとは限りません。肩甲骨や体幹との安定性がとれることで関節の安定性が図れます。そのためには肩や腕だけにとらわれずに、肩甲骨、体幹の筋肉がしっかり体の土台となるような姿勢つくりも同時に実施していきましょう。もし痛みがある場合には、関節腔内注射や神経ブロックなどの注射で頭痛を和らげる方法もあります。亜脱臼を伴う管理方法としては、アームスリングを装着し、肩周囲の筋肉や軟部組織がひっぱられないようにします。しかし、麻痺の程度にもよりますが、長期間アームスリングにて固定していることで、不動からくる関節拘縮や、麻痺した手の不使用の学習によって麻痺の改善を遅らせてしまう可能性もあります。そのため、状況に応じて使用すると良いでしょう。

【まとめ】

脳卒中後の麻痺側の肩の痛みは

・痛みをつくらないための予防

・痛みがある場合は、痛みの原因を知る

・運動は痛みのない範囲で動かす

・体幹や肩甲骨とのバランスをとる

以上が麻痺側の肩痛に対するリハビリとなります。

発症からの期間や経過も非常に大切となりますので、しっかりと認識や理解をしながらリハビリを進めていきましょう。

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