脳の可塑性とは

脳梗塞後の片麻痺は治る?治らない?

どの程度回復する?それとも回復しないの?

脳梗塞を発症後、後遺症として片麻痺があることはご存知かと思います。どんな片麻痺の方でも、必ず回復の過程を辿ります。しかし、どの程度かは人によってかなり差があります。

そこで、脳梗塞を発症した初期から後期にかける脳細胞の回復についてまとめてみました。

脳神経細胞の回復機序(脳梗塞からの回復機序)

急性期での回復機序

脳卒中片麻痺の急性期での回復は脳浮腫の改善、出血の吸収、脳循環の改善、脳血管攣縮の改善、ディアスキーシスからの回復が主であるとされています。特に脳浮腫は神経の回復に悪影響を及ぼすことが知られています。ディアスキーシスからの緩やかな解放は、急性期からいわゆる回復期にかけての片麻痺改善において重要な役割を担うとされています。

回復期での回復機序

中枢神経障害で生じる回復機序に、損傷部位への発芽とシナプス結合の新生があり、片麻痺回復において脳の可塑性と神経再構築の基盤の一端を担っています。ここでいう発芽とは、大きく分けて二つあります。

・再生発芽:軸索の切断後、中枢束から再生が認められるもの。

・側副発芽:神経細胞から脱神経領域に発芽し、シナプスを形成するもの。

また、新経路の再構築によって著名な機能回復が起こるといわれています。中枢神経系軸索は従来の考え方とは異なるものであり、大きな再生能力を持つだけではなく、再生した軸索は正しい経路を見出して正しい標的に神経結合を作る能力を持つといわれています。しかし、軸索再生が不良で短い距離しか伸びずに異所性投射になるのは、軸索の伸びる場所が足りないことや、グリア瘢痕残存による障壁や、軸索を誘導する手がかりが乱れている、などが起因するとされています。中枢神経伝導路の再生を妨げるのは切断部の局所的な条件であり、局所的な条件を改善すれば、正常と同等な新経路が再構築することが可能とのことです。これまで、ヒトの神経細胞やニューロンは生まれたときから数が決まっており、増えることなく再生不可能であるといわれていました。しかし成人の脳にも幹細胞があり、分裂能を持っており、神経細胞にも分化できるし移動もできる、それによって失われた神経細胞を補充できるとの提唱がされるようになってきました。

再生医療とは本当にすごいです。近未来的で、医学は日に日に進化しています。昔の医学書と書いてあることが正反対なんて言うこともありますからね。小難しい話になってしまいましたが、脳梗塞を発症してからの脳神経細胞はこういった経過をたどって回復するのです。

片麻痺の回復過程

次に、脳梗塞後遺症の代表である、「片麻痺」がどのように回復の過程を辿るのかまとめてみました。

脳血管障害による片麻痺の回復過程

一般的に脳卒中片麻痺は発症後にある程度回復します。しかし病気になる前と全く同じに回復することは少ないとされています。片麻痺の回復の程度は脳障害部位、障害の大きさ、発症時の麻痺の重症度、発症後の経過、年齢、発症する前の神経状況などからの影響を受けます。また、脳卒中片麻痺の回復や脳の可塑性についての詳細の検討は、最近の脳機能に関する様々な研究などから著しく進歩してきており、現在に発表されている回復に至る過程は今後もどんどん変化してくるでしょう。

片麻痺の回復過程

一般的に時間の経過とともに片麻痺からの回復が認められます。発症後一カ月に最も片麻痺の回復が認められる傾向にあります。特に脳卒中の重症度により片麻痺の回復過程に違いが認められます。小さな微小梗塞などの軽度な脳梗塞であれば片麻痺の回復は比較的良好といわれています。しかしその反面、発症後一カ月で麻痺の回復はほぼ固定される傾向にあるともいわれています。一方、中等度から重度の片麻痺でも時間の経過とともに回復は認められます。しかし軽度な脳梗塞に比べて著しい回復は困難な傾向にあり、何かしらの後遺症を残すことが多いとされています。中等度の脳卒中では発症後三カ月まではかなりの片麻痺からの回復が認められます。重度脳卒中では発症後六カ月までは緩やかな麻痺の回復が認められます。

発症後六か月以降は殆ど片麻痺の回復は認められません。と昔のリハビリ業界では当たり前に言われていました。しかし今では全く違います。今は緩やかでも片麻痺からの回復が発症後の月日に関係なく起こり得るといわれています。ただし自然な回復ではなく、リハビリを行うことで回復を目指せるものであることが前提です。こういった脳の回復のことを、「脳の可塑性」といいます。とくに重症障害で比較的年齢が若い場合には発症一年までの回復が続く例があり、一概に期間を定められない難しさがあります。

脳の可塑性とは

脳の可塑性(かそせい)とは、脳梗塞などを発症し、一度脳が損傷し神経細胞が壊死してしまうと、「二度と回復しない」かつては、そう言われていました。しかし、近年では「脳には可塑性が存在する」ということが脳科学の研究により明らかになってきました。「可塑性」とは、「脳が様々な刺激を受け入れ、それに応じてより合理的に反応するために、シナプス伝達を変化させる能力や性質」とされています。元々は物理学で用いられる言葉であり、正しくは「外力を加えて生じた変形が外力を取り除いても元に戻らない性質」とされています。つまり、リハビリテーションなどにより反復した運動やその学習の経験が施されることで、新たな神経ネットワークを構築し、その結果、失ってしまった機能を再獲得できるということです。

しかし、「反復した運動」や「その運動の学習経験」とは何でもよいわけではありません。ただ運動や筋トレをしたらいいわけではなく、「最適」な運動を「正しく」行うことが重要です。これを裏付けるものとして、「不使用の学習」といわれるものがあります。どういうことかというと、有名な研究に、リスザルによる脳梗塞後の麻痺した手足を積極的に使う動物実験があります。結果をいうと、積極的に麻痺側を使用したことで、手指を動かすための脳の領域が拡大したのです。逆に麻痺した手足を使わず、麻痺していない手足ばかりを使うと、麻痺側の脳の領域は失われていってしまい、使わないこと、不使用を脳が学習してしまうのです。

以前までのリハビリの中では、麻痺してしまった手足を動かす訓練よりも、麻痺していない手足で生活できるための機能を獲得していくものが主流であったかもしれません。しかし現在は、脳科学の発展により麻痺している手足が再び動かせるような訓練も行われてきております。まだまだ発展的な部分も多いとは思いますが、神経リハビリテーション(ニューロリハビリテーション)の重要性が脳梗塞後遺症に悩む方への希望となるのではないでしょうか。

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