リーチ動作の構成要素を知ろう

上肢機能とは、食事、整容、着脱衣、書字などの日常生活の大半に関与してくる精緻な運動スキルにとって非常に重要な基礎となります。

その中でもリーチ動作は、目標物への手の移送を行うために必須の動作であるため、我々セラピストにとってセラピー対象となることが多いのではないでしょうか。

リーチ動作は、体幹や肩甲帯を含む上肢全体の基礎的機能が協調して活動することによりその運動を効率よく行うことができ、そこには筋骨格系の要素に限らず、様々な神経機構によって制御されているため、運動系制御に問題を抱える対象者の場合、問題点や課題設定を明確にすることに難渋しやすいところでもあります。

まずはリーチ動作の構成要素を理解し、臨床場面の問題点や課題を整理できるようにしましょう。

リーチ動作の構成要素

reach to graspは以下のような動作によって成り立っています。

・スタート:開始姿勢の維持

・リーチ&グラスプ:対象物に手を伸ばす、対象物を掴む

・移送期:対象物を自分の方へ近づける

・移送〜離す:テーブルに手を伸ばす、対象物を置く

・元の位置に戻る:手を引く

リーチ動作は、上肢の動きのみならず、その姿勢そのものも含まれます。

上肢の運動機能にとらわれず、姿勢を安定させる機能、姿勢を転換させる機能、上肢の運動に合わせた姿勢を安定させる機能にも着目した介入の視点や動作分析の視点も持っておくと良いのではないでしょうか。

参考:Erin E.Butler , Three-dimensional kinematics of the upper limb during a Reach and Grasp Cycle for children 2010

リーチ動作時の上肢関節の役割

肩甲上腕関節

目的の方向を定める

いわゆる肩関節は多軸性の関節であり、非常に自由度に富んだ関節です。

その役割は、3Dにリーチする方向を定め、上肢を対象物の方向へ直線的に運動することに関与します。

いわゆる肩関節に何らかの運動制限があると、他関節でその方向を代償することとなるため、脊柱の過剰な屈曲または伸展、方向によっては回旋や側屈なども生じます。

あるいは肩関節自体で過剰な外転を用いることや挙上による代償もよく見られるかと思います。

肘関節

目的との距離を定める

肘関節は主に屈曲と伸展の一方向性の運動機能を有しているため、その役割としては、対象物との距離を定めることとなります。

対象物が遠くにあればあるほど、肘の伸展を要し、上肢長で届かない範囲の場合には体幹が対象物の方向へ運動が加わります。

前腕

道具との協調とリーチインリーチアウト

リーチアウト時には前腕は回内しリーチイン時には回外することで動作全体の円滑さを補助します。

また道具の操作を行うためには回内外が必要となります。

手関節、手指

対象物の形状やその操作方法に適応させ、精密な運動を担う

リーチ運動の先には必ず手指の操作性を要すこととなります。

掴む、押す、触る、弾くなど。

手関節手指は、その対象物に応じた適応が重要であり、それにより適切な操作や把持が可能となります。

また、操作内容によっては熟練度に応じて趣旨の動きは巧みになります。

リーチ動作時の上肢運動

こちらは、健常者の利き手非利き手と脳卒中者のリーチトゥグラスプ時の関節角度を調べた研究になります。

課題は飲水課題であり、(1)手を伸ばしてグラスをつかむ、(2)グラスを前方に運んで口に運ぶ、(3)一口飲む、(4)グラスをテーブル上に運ぶ、(5)手を元の位置に戻す、といういわゆる通常の食事場面を想定したものになっています。

ここで見て欲しいのは、肘の屈伸角度になりますが、肘の伸展は55度ということで、もちろん対象物品の設置位置に依存はしますが、通常のいわゆる手の届く範囲でのリーチ動作において肘関節の伸展は何も0度である必要があるかというとそうではないということ。

つまりリーチ動作課題とは、何を目的に行うかによってその必要とされる関節角度も異なるため、どうしてもリーチ訓練となると肘の最終伸展位まで行う場面が想定されやすいですが、あくまでも場面に応じた動作を推測し、それぞれに応じた設定を行えると良いかと思われます。

また、体幹の変位量に着目すると、健常者(33-35mm)と脳卒中者(70mm)で、およそ2倍ほどの差が生じています。

上肢の運動機能を体幹で補償している可能性と、上肢の運動に対する体幹の不安定性の可能性の両側面からの結果が推測されます。

いずれにしても、姿勢の不安定性は運動の効率を阻害しますので、体幹の動揺や姿勢の安定に配慮した介入は望ましいのではないでしょうか。

参考:Gunilla Elmgren Frykberg , How Many Trials Are Needed in Kinematic Analysis of a Reach-to-Grasp Task? – a Study in Persons With Stroke and Non-Disabled Controls 2021

こちらは箸を用いた実際の食事に必要とされる関節角度変化を動作解析した研究になります。

前腕の回内の角度変化をみると、リーチアウトに伴い急激に回内します。

その後リーチインに伴って回内した前腕は回外することが分かるかと思います。

リーチ動作は肩や肘関節の運動にフォーカスされやすいかもしれませんが実は前腕の運動が非常に重要な役割を担っており、円滑に動作を行うためには必須な運動でもあります。

例えばこの前腕の回内が制限されてしまえばリーチアウトした際の道具の操作(箸でつまむ、スプーンですくうなど)を制限してしまいます。

脳卒中片麻痺者では代償的に肩関節の内旋や外転などがみられることが多いかと思います。

参考:Jun Nakatake , Exploring whole-body kinematics when eating real foods with the dominant hand in healthy adults 2021

まとめ

・到達点が高ければ高いほど屈曲角度、主動筋活動ともに増大

・机上のみで完結する課題における肩関節の屈曲-伸展角度は大きくはない

・近位筋が遠位筋に対し先行して収縮することで近位関節の安定を補償し、遠位関節の運動を補償

・直線的な軌道には3次元的に協調していることが重要

・肘関節は必ずしも伸展角度は0°を要すわけではなく、あくまでも到達点との距離により決定する

・直線的な軌道によるリーチ動作のためには、体幹や肩甲帯などの中枢部の安定性が伴っていることが重要となる

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