脳卒中で床ずれになることがある?

脳卒中で床ずれになるの?

褥瘡は統計学的に脳血管障害、脊髄疾患に起因する場合が多く、寝たきり高齢者の増加とともに増えています。以前は、褥瘡は治らない創といわれていたが、創傷治癒に関する研究、治療薬や材料の開発により治る創と変わってきました。さらに、予防について注目され、進歩をみせています。2004年から診療報酬のなかで褥瘡患者管理加算がついたことで、予防が主になっています。

~発生予防、発生要因~

褥瘡の発生は応力によると言われています。応力とは身体内部に発生する力を総称していい、圧縮応力、引っ張り応力、せん断応力があります。今まで圧迫が原因とされ、一定の部位に体圧が集中すると局所の血流が悪くなり阻血性の壊死が生じて発生すると考えられていました。しかし最近では、外力に対して身体の中に発生する力(応力)と時間が原因と提言されています。体圧は骨突出部に集中し、圧迫による力は骨に近いほど大きいです。そのため、みえない深部の組織に障害が及びやすいです。

褥瘡の発生要因について

局所的には、

①摩擦・ずれ:ベッドのギャッチアップや体位変換時、移乗時に起きやすい

②失禁・湿潤:排泄物や発汗により皮膚に浸軟が生じる

③加齢による皮膚変化:皮脂減少に伴うドライスキン、表皮が薄くなる、皮膚バリア機能低下がおこり物理的刺激に弱くなる。

全身的には

①低栄養:浮腫や低ヘモグロビンで組織の耐久性が低下する。また、創傷治癒におおいに影響する。進行すると、痩せ、骨突起が著名となりいっそう褥瘡が発生しやすい

②基礎疾患:脳神経疾患・脊髄疾患による運動機能や知覚機能低下、うつ病など精神活動の低下がある場合におきやすい

③薬剤・放射線:組織の耐久性を低下させ、易感染や創傷治癒遅延きたしやすい

社会的には

①介護力不足:人手不足で十分なケアができない場合や介護者自身の身体的な支障を抱えている場合がある

②経済力不足:予防用具など福祉サービスの活用はあるが個人負担も大きい褥瘡の発生要因を局所的、全体的、社会的の3つの視点から考えてみました。

発生要因は様々ですが、原因を知る事で予防や治療ができます。

~褥瘡の好発部位~

骨突起に好発するため体位によって異なります。多くの方は仰臥位で臥床しており仙骨部に体重が集中します。ある調査結果では入院、在宅群とも仙骨部が50%を占め、次いで足・足関節部となっていて、最近では車いすの長時間座位による褥瘡も多くなってきています。

~褥瘡の程度と分類~

褥瘡の分類として深達度分類と経過による分類があります。深達度分類はShea、IAET、NPUAPがあるが診療報酬上の基準ではSheaを用いています。深達度分類の場合は重症度がわかるが途中経過はわからないことが多く、経過による分類は、病理組織学的な視点から、炎症期、壊死期、肉芽形成期、表皮形成期に分けています。また、色による分類は、治療方針を決定するのに有用とされています。日本褥瘡学会が開発した褥瘡状態判定スケール(DESIGN)は、褥瘡の重症度を分類するとともに、治癒過程を数量化することができます。

深達度分類(Sheaの分類)

GradeⅠ 表皮の損傷、皮膚の紅斑と硬結。浅い褥瘡

GradeⅡ   全層皮膚損傷。浅い褥瘡

GradeⅢ   深在性筋膜に及ぶ深さ、筋膜や骨膜には達しない。深い褥瘡

GradeⅣ   筋肉・骨・関節に及ぶ深さのあるいはそれ以上の深さに及ぶもの。深い褥瘡

〜褥瘡に対するケア〜

1、除圧

すでに褥瘡となってしまった創に対しては除圧を図る必要があります。病院では基本的に2時間ごとの体位変換を行うが、在宅では介護者の負担が高く困難です。予防用具を併用し対象者の状態により体位変換を行なっていくこととなります。急性期の脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)で麻痺のある場合は麻痺側を長時間下にしないように注意して下さい。体位変換は座位においても必要といわれ、自分で臀部を持ち上げられる方は15分おきの座り直しが良いとされている。自分で臀部を持ち上げられない方は1時間が限度です。大腿後面で体重を支えるようポジショニングの工夫が必要です。側臥位は30度までとし、大腿筋に体重がかかるようにする。最近ではクッションの併用で135度も有用とされていますが、状態により考慮が必要です。また体位変換技術として、キネステテックを用いていくのも一助となります。

「人を動かす」といった視点に立つと、ポジショニングにしようするクッションの素材も考えなければなりません。少しずつADLが拡大してくるとある程度の支持力を得るものがお勧めです。

2、栄養管理

褥瘡があると出血や滲出液の漏出により低蛋白やヘモグロビンの低下になりやすい、アルブミン値を3.0g/dl以上保たなければ治癒は難しいとされています。つまりタンパク質の摂取が重要となります。また亜鉛、銅、ビタミンA、ビタミンCは繊維芽細胞がコラーゲンを作る時に必要といわれていることから注目すべき栄養素である、褥瘡が悪化するケースでは低ナトリウム血症がみとめられていることがあり電解質の補正も重要です。摂取エネルギーとしては25~30kcal/kg/日を目安とします。栄養補給は経口摂取が基本となります。嚥下障害のある場合は増粘剤の使用や半固形状のものを選択します。できるだけ自力で摂取出来るよう工夫し、脳の働きを促します。副食を予定する場合は蛋白食品や乳製品が望ましいです。必要エネルギーが得られなければ腸で多少消化され便が残る半消化態栄養や、腸で消化を必要とせず完全に消化される消化態栄養を用います。場合によって頸静脈栄養の適応となります。

3、局所のケア

(1)創面の清浄化

①壊死組織除去

褥瘡発生2週間後には壊死と健常組織の境がはっきりしてきます早期治療のためには壊死組織の除去が必要です。方法は観血的な方法と非観血的な方法があり状況や状態によって選択します。積極的に壊死を取り除かないときは、薬剤の効力で悪化を予防したり、感染を予防したりできます。壊死は深部に感染巣を招き時には生命を脅かすことになりかねません。そのようなとき、浸透性のよい乳剤性素材を使用するのが好ましく、局所に抗生物質の軟膏を使用しても浸透性がなく効果は薄いです。抗生物質は全身投与した方が良いです。

②消毒・洗浄

消毒の必要性には議論はいろいろありますが、感染のリスクが高いときは必要です。消毒液は細菌に対して著効であるといわれていますが、一方では細胞毒性があるといわれています。したがって、肉芽形成期は用いないほうがよいとされ、浸出液中のタンパク質により不活性化しやすい。そのため浸出液の多い創では消毒をせずに生理食塩水による洗浄の方が好ましいです。洗浄方法としては18G針を付けた30mlシリンジがよいとされています。100ml生理食塩水プラボトルでも良いです。消毒液を使用した際は1分後に洗い流すのが良いです。また、創部のみのケアにとどまらず可能な限り石鹸を用い入浴やシャワーで洗い流すのが良く在宅の場合は生理食塩水が手に入りにくいので湯冷ましを空き容器などに入れて代用します。最近では洗浄のほとんどは微温湯を使用しています。

~褥瘡の予防~

褥瘡の予防には

①除圧 ②スキンケア ③栄養 の三本柱です

ひとつずつ説明します。

①除圧

除圧をするための用具には全身用と部分用があります。全身用予防用具の体圧分散寝具は自力で体位変換できるかできないかを選択していきます。上敷マットレスは通常のマットの上に重ねて使用するタイプで、交換マットレスは通常のマットと入れ替えて使用するタイプです。素材はエア、ウレタン、ウォーターがあるが、一般的なのはエアマットです。エアマットには静止型と圧切り替え型があり、自力で体位変換できる場合は安定感のよいものにします。自力で出来ない場合はより体圧が減じられるようにし、日常生活状況を考慮して体圧分散寝具の厚さを決め、リハ目的の場合はうれたにゃエアマットの薄いものがよいです。

これらの予防用具が正確に機能しているか確認するために簡易体圧測定器を用いる方法もあるが、日常すぐ確認できる方法としては、骨の突起部の下に手を入れて底付きの有無を確認する方法があります。手のひらを上にし、指を真っ直ぐにして体圧分散寝具の下にいれる。指を入れた時に骨突起に触れるのが適切とされています。必ずこの底付きの確認をするようにお願いします。部分用予防用具は通気性の良いビーズマットや高価であるが体圧分散効果の高いフローテーションマットがあります。ムートンは本来減圧する効果はなく、予防用具ではないことと、円座の使用は局所外周に圧迫を加え循環障害をきたすなどかえって褥瘡発生に結びつけてしまうので注意して下さい。

②スキンケア

ベッドで擦れる状態と、組織が引き伸ばされる状態を極力少なくしていくことが重要です。脳血管障害の急性期でギャッチアップする際は膝下の部分を屈曲させてから頭部を上げることが大切です。さらに背ぬき、足ぬきといいギャッチアップ直後に背中や足をいったんベッドから離してしわやよれを解除すると摩擦やずれを開放することになり大切な予防となります。圧迫のマッサージは深部組織の損傷を招くため禁止されています。特に高齢者にみられる乾燥肌は表皮が損傷しやすいので保湿クリームでケアをして下さい。

清拭時にも注意が必要で圧迫を受けている部分は強く擦らないようにする。石鹸は可能なら弱酸性のものを使い、必要以上に皮脂を取りすぎないように、また、アルコール含有の清拭剤はお勧めできません。洗濯糊のついた寝衣も避けるようにして下さい。乾燥も注意しなければなりませんが、湿潤した皮膚は乾いた皮膚の5倍もの損傷を発生しやすいといわれています。湿潤の原因は汗、尿、便ですのでベッド上に用いるラバーシーツは慎重に選択してください。紙おむつはこまめに取り換え、皮膚被膜剤や撥水剤の使用、未滅菌のポリウレタンフィルムの貼付をおすすめします。

③栄養

組織の耐久性を低下させないために全身状態や活動に合わせたエネルギーの補給が大切です。できるだけ経口摂取で栄養をとり、栄養状態の検査(身体、血液)を定期的に行って下さい。在宅の場合は難しいので眼瞼結膜を見たり腸骨棘の状態をこまめにチェックします。アルブミン値は予防的には3.5mg/dlが目安ですので参考にして下さい。

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