脳卒中後に起きる記憶障害とは

今回は脳血管障害後遺症に多くみられる記憶障害について紹介させていただきます。まずは『記憶』について説明します。

脳卒中後の記憶障害

記憶とは、新しい経験が保存され、その経験が、後になって、意識や行為に再生される心的過程と定義されます。さらに具体的にいうと、記憶はものを覚える”記銘の過程(符号化)”、それを一定期間忘却しないように保存する”保持の過程(貯蔵)”、あるときに、それを意識的もしくは自動的に思い出す”想起の過程”(取り出し)の3段階から構成されます。思い出した情報は、再度記銘と保持が繰り返されるが(再符号化)、その際に、記憶内容が強調されたり、加工が施されたりします。このような一連の情報処理のどこかに問題が生じると、日々の体験を蓄積することが困難になります。これが健忘症です。記憶は単一のものではなく、いくつかの種類に分かれます。また、健忘症の臨床でも、ある種の記憶は障害されるが、それ以外の記憶は保たれているということが起こります。私たちは生まれてから現在に至るまでの日々の経験を、自己の財産として長期記憶に蓄え続けており、普段は意識に上らないものも含めると、そこに埋蔵されている情報は膨大な量になります。

過去から積み上げられてきた長期記憶は、その情報のタイプから、「手続き記憶」と「陳述記憶」に分けられます。

手続き記憶とは、運動的熟練や、技術、日常生活行動における習慣など、意識に浮上しない形で、行動や反応に結果が現れてくる記憶のことで、陳述記憶とは、視覚的・聴覚的なイメージや言語などとして意識に浮上し、なんらかの形で表現でき、陳述できる記憶です。

陳述記憶はさらに、「エピソード記憶」、「意味記憶」に分かれます。エピソード記憶とは時間や場所の情報が付随した個人的な記憶で、いわゆる思い出に相当します。たとえば小学2年生の夏におばあちゃんの家に遊びに行ったと思いだしたとすると、その時の感覚特性を備えた具体的状況が思い起こされ(具体的感覚特性)、さらに自分自身が対象化されたかたちでその記憶の中に存在するという感覚(再現意識)が喚起される。意味記憶とは、個人的な時間や場所の情報が付随しない、一般的にいう「知識」に相当する記憶で意味記憶では、内容は思い出せるが、どのようにしてその内容を覚えたのか、その情報は思い出せないです。また、「思い出す」という心的活動を行う際の意識も、エピソード記憶とは全くことなっています。たとえば、「アメリカの首都はニューヨーク」という意味記憶では、知識がそのまま表にでるだけで、そこに明瞭な再現意識を伴うことはない。意味記憶については、記憶すべき情報の様式の違いに基づいて、言語性意味記憶と、図形の記憶や物体の空間的配置などの非言語性意味記憶に細分する事ができます。

現在の意識を作り上げている記憶とはなんでしょうか、認知活動を達成する為に、現在の意識を占有している素材となる記憶ならびにそれらを操作している心理過程を総称して「作業記憶」と呼びます。素材となる記憶は、短期もしくは即時記憶であり、注意が向けられなくなると、ごく短時間のうちに消失してしまいます。たとえば、ある程度羅列した数字や、記号を瞬間的に覚えても、すぐに忘れてしまうように、また、その羅列した数字や記号を見ただけでは覚える事は困難です。短期記憶として意識にとどめられる情報の容量にも限界があります。

一方、心的操作を行っているのが中央実行系とよばれるシステムがあります。これは、意識に常駐して、刻々と変化する状況に即応する現在進行形の認知活動をおこなっていて、必要な記憶素材があれば、それらを取り出したり、オンライン化し、その作業に取り組んでいます。私たちの、いま、現在の意識を作り上げているのが「作業記憶」であります。数字の順唱は、記憶素材を単に保持していればできるので短期記憶課題ですが、逆唱は数列をオンラインで保ちながら、同時に順番を逆にするという認知的操作を加えているため作業記憶を測る課題になります。

現在の意識、記憶の次は未来の意識、記憶について考えていきましょう。私たちの日常生活を円滑に行うには、ある時刻になったらタイミングよく思いだして実行に移すというスキルがとても大切です。このような役割を果たしているのが「展望記憶」です。この場合、予定していた行動を、ずっと意識にとどめておいて実行するのではなくて、何か別の用事を行なっているにもかかわらず、その時刻が近づいた時に、潜在的なレベルで検索モードが働き、タイミングよく想起できることが大切です。展望記憶における一連の認知行動には、自発性や計画性といった、記憶に収まらない要因も関与している可能性が考えられています。

記憶障害には、大きくわけて純粋健忘症候群とコルサコフ症候群があり、その中に「前向健忘」と、「逆向健忘」があります。前向健忘とは、発症時以降におきた体験を覚えることができない(現在進行形の記銘力障害)状態をいいます。但し、数唱が非常に良好で、記憶を保持する時間をごく短時間に狭めれば(短期記憶または即時記憶)、記憶は全く正常です。前向記憶では、保持時間が長く、さらにその間に干渉が入る課題では(長期記憶または近時記憶)障害が強く現れます。この様なエピソード記憶の障害とは対照的に、手続き記憶は保持されます。

逆向健忘とは、発症時点を境として、それよりも前の出来事を思い出すことができません。一般的に発症時期に近い過去の追走は悪いが、遠い過去のことはよく覚えており、追想の障害に時間的勾配が存在します。また、逆行健忘の期間についてはその時間経過の感覚も失われて、今現在の意識は追想可能な過去の時点にタイムスリップすることがあります。そして、知的能力については知的能力が発症後どうなっているのか、「知的能力の保持」という言葉を使います。記憶障害が存在していても、知的能力は水準以上に保持されており、健忘は知的障害によって生じたものではないのは明らかで、自己の記憶障害に対する洞察も十分に保たれている状態をいいます。また、責任病巣は両側半球の海馬を含む側頭葉内側面で、時に、左半球病巣のみでも生じます。原因疾患としてはヘルペス脳炎や両側後大脳動脈梗塞などが多いです。

まとめ

純粋健忘症候群

・前向健忘又は逆向健忘を認め

・知的能力の保持はあり

・責任病巣は両側半球の海馬を含み、側頭葉内側面、左半球病巣のみでも生じる

コルサコフ症候群

・前向健忘又は逆行健忘

・現在の日付や自分のいる場所の認識ができなくなる見当識障害が強い

・作話:事実にないことを話す

・知的能力は保持しない場合もある

・責任病巣は主に間脳正中部(両側の乳頭体と視床)、前脳基底部の損傷、ウェルニッケ脳症や、視床梗塞、前交通動脈の動脈瘤破裂、くも膜下出血など

コルサコフ症候群は記憶障害に前頭葉症状が重畳したものとして考察する見方もあります。

少し聞きなれない言葉が多く肩がこりますね。でも、とても大切なことなのでしっかりと覚えておきたいです。

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