脳卒中リハビリ-ミラーセラピーとは?

こんにちは。カラダの先生の森です。

本日はミラーセラピーについて解説していきます。

元来は事故などにより手足を切断した方に有効とされ実施されてきたミラーセラピーですが、近年では脳卒中後の上肢運動麻痺に対しても実施されることが多く、またそれを裏付ける研究も盛んに行われています。

まずはミラーセラピーについて聞いたことがない方から詳しく知りたい方まで、様々な角度からミラーセラピーについて解説していきます!

そもそもミラーセラピーって何?

ミラーセラピーとはミラーボックスと呼ばれる鏡を用いた箱を使用します。

鏡に非麻痺側の手を反射させることで、あたかも麻痺側の手が動いているように脳に錯覚させるものになります。

右手が麻痺側
左手が非麻痺側
実施者から見ると、左手を動かすと右手が動いているように見える。
それにより実際には動いていなくても脳が動いているように錯覚するというもの。

そもそもミラーセラピーは幻肢痛の治療法として1995年にRamachandranらによって考案されたリハビリ方法です。

鏡を使用することで脳への求心性情報として視覚的な錯覚入力を与え、その錯覚により実際に動いていない手の運動感覚を生成させ、それが脳の運動前野や運動野の活性化をもたらし、また体性感覚野での身体イメージの再構築に影響を与えると考えられています。

これにより、本来存在しないはずの幻肢を視覚的に表象し、そしてリアルな身体運動感覚を生成することで患者が幻視のコントロールを経験し、幻肢痛の消失に成功したとRamachandranらが報告したとされています。

目で見た情報により脳を錯覚させ脳を騙すことで、実際に動いていなくても動いたときと近い脳の反応が得られるということです!

従来難治性の幻肢痛の治療は困難であるため、外科的な手段で断端を切除していくという古典的な治療法が紹介されていたが、ミラーセラピーは、幻肢や幻肢痛の起源を、末梢の筋肉や骨などではなく、末梢からの感覚入力を受信する側の脳に求め、脳に対する末梢からの感覚入力情報に錯覚情報を加え、自身の脳を騙すことに見事に成功したのである。

また、脳卒中後の上肢運動麻痺に対する治療、複合性局所疼痛症候群(CRPS)の治療などにも用いられる。

幻肢痛とは
何かしらの影響により四肢が切断された後にも身体図式(自分自身の身体に対して、その人が抱いているイメージを意識下で形成させるもの)は残っており、まだ切断した手足があるかのように感じることを幻視感といい、その四肢を幻肢と言います。幻肢は身体の運動に伴って、運動を感じたり、時には幻肢の一部位に痛みを感じたりもします。この幻肢痛は一般に、引きつけるような、焼けるような、突き刺す痛みと訴えられ、幻肢痛の感じられる部位を支配していた知覚神経末端が強く刺激されるために起こると考えられていますが原因は不明です。

ミラーセラピーの実施方法

ミラーボックスとは

ミラーセラピーに使用される箱のことをミラーボックスと言います。このミラーボックスは両手の前腕から手先が収まる程度の大きさです。

手前の穴が両手をそれぞれ入れる開口部となり、麻痺側の上面部には可能な限り視覚を遮断できるように覆い隠します。

箱の中央部には鏡を設置し、その鏡像が視覚的に確認できるようにします。

両サイドには、セラピストが麻痺側を他動的に運動させたり操作するために穴を空けてあります。

この写真のミラーボックスは私が実際に作成し訓練に使用しているものです。

適度なサイズの箱と鏡があれば、作成自体は簡単ですので是非興味がある方は作ってみても良いかと思いますよ!

使用方法

①ミラーボックスの開口部に両手をそれぞれ入れる

②ボックス中央の鏡に非麻痺側の手が写っていることを確認

③麻痺側の情報を遮断するため、箱の上面を覆い隠す

④非麻痺側の手を動かし、鏡にて麻痺側の手が動いているように見えることを確認

運動方法

ミラーボックス内での基本的な運動の種類としては、手関節の掌背屈、橈尺屈運動(手首の前後左右の曲げ伸ばし)、手指の把握や開排運動、巧緻性運動(細かな指の運動)などが挙げられます。

基本的に非麻痺側での運動となるのでどんな動きでも出来る範囲は可能ですが、箱の大きさに制約を受けるためダイナミックな運動は出来ません。

そして道具を使用した物品操作や複雑な課題は非麻痺側自体の求心性情報を必要としてしまい、錯覚感の減弱が起こると推測されていますので、非麻痺側で考えずに行える程度の運動課題が良いとされます。

脳卒中片麻痺に対する効果

1999年Altschulerらの報告によると、発症後平均4.8年を経過した9名の慢性期脳卒中患者に対してクロスオーバー研究(2つまたはそれ以上の介入を取り入れる研究)を実施。ミラーもしくは透明プラスチック板を用いた治療を4週間ずつ実施し、次に、ミラーと透明プラスチック板を入れ替えて4週間の治療を実施。頻度は、1日に2回、1回あたり15分間実施。

結果、手指機能に改善が認められ、治療を受けた全員がミラーセラピーに対して良い印象を抱いたという報告があります。

(Altschuler EL,Wisdom SB,Stone L : Rehabilitation of hemiparesis after stroke with a mirror. Lancet 353 : 2035-2036,1999)

手塚らが2005年に報告した臨床研究として慢性期脳卒中患者11名に対して、1日15分間、週に5日以上のミラーセラピーを4週間から10週間実施し、FMAという評価スケールによって改善が得られたという報告もあります。そしてその際には左片麻痺患者に有効であるという傾向もみられています。

(手塚康貴・他:脳卒中片麻痺患者に対するミラーセラピー、理学療法22(6):871-879、2005)

FMA(Fugl-Meyer Assessment Scale)とは
1975年にFugl-MeyerらによってBrunnstrom Stageを基盤に考案され、運動機能、平衡機能、感覚機能、関節可動域、疼痛の評価を含む包括的な評価方法のこと。世界的に汎用されている片麻痺機能評価の一つで、その信頼性や妥当性も確率している。

関らの報告では平均発症後日数97±22日を経過した4名の脳血管障害患者(脳梗塞2例、脳幹梗塞1例、脳出血1例)に対して1日10-20分、5-14日間連続してミラーセラピーを実施し、介入期間の前後におけるしびれや痛みの変化を観察しています。

結果、いずれの症例においてもしびれや痛みの改善がみられています。

(関有香子・他:脳血管障害後のしびれ、疼痛に対するmirror therapyの試み,リハビリテーション医学43:332,2006)

Sathianらは、脳卒中発症後6ヶ月が経過した深部感覚重度障害者に対して1日1時間、3ヶ月間ミラーセラピーを実施し、手指機能の改善(操作性や筋力など)がみられたと報告しています。

(Sathian K, Greenspan AI, Wolf SL: Doing it with mirrors: a case study of a novel approach to neurorehabilitation. Neurorehabil Neural Repair 14: 73-76, 2000)

などなど国内外問わず様々な研究報告が挙げられていますので、実施される場合は回数や頻度などを参考にしてみても良いかと思います。

ミラーセラピーがなぜ効果があるのか

脳は運動が起こったときに、様々な感覚からフィードバックを得てその命令が実行されるかを確認しているのですが、脳卒中片麻痺で運動麻痺がある時、正常な運動が起こらず視覚情報としては適切なフィードバックが起こりません。

つまり、視覚からの脳への情報としては、手が動いていないという情報が入力されてしまいます。

これが繰り返されるうちに脳は勝手に手が動かないことを学習し刻みこまれていきます。

すなわち、本来であればある程度の動きが可能であったとしても自分自身の脳の中で麻痺を作り出している状態であると考えることができます。

つまり脳卒中後の運動麻痺には、本当に存在する麻痺と、自身の脳が動かないことを学習してしまった本来は存在しないはずの麻痺があるということです。

そこで本来は存在しないはずの麻痺をなくすことができれば運動麻痺の障害じゃ改善することがでいると考えられます。

そこに対してミラーセラピーが、ミラーボックスを用いてあたかも麻痺側の手が動いているように視覚情報から錯覚させることができれば、視覚系のフィードバックが適切に行われ、それを繰り返すうちに脳の持つ可塑性によって神経がつなぎ直され、運動障害や麻痺が改善するのではないかと考えられています。

自宅でもホームエクササイズとして実施できちゃう

ミラーセラピーは使う道具がミラーボックス(箱やダンボールなど)と鏡さえあればどこでも行う事ができるため比較的容易に実施が可能です。

そのため、病院や施設のみならず自宅でも行う事が可能な事がこのミラーセラピーの大きな利点といえるでしょう。

そしてミラーセラピーは一概には言えませんが、麻痺側の運動ではなく、錯覚的な視覚入力のみの治療となりますので、重症麻痺患者さんや手術直後の患者さんでも、実際の運動が困難な状態状況でも応用が可能です。

脳卒中後の片麻痺改善に対するリハビリテーションは運動が全てではありません。

視覚的に脳への刺激を賦活する事で改善に結び付けられることもありますので、ミラーセラピーが適応である方にはぜひ自宅でのセルフエクササイズとしてはオススメです!

また、道具自体の作成も比較的簡単で、かつ安価に揃える事ができる事もミラーセラピーの利点ですね!

行う際のポイントと注意点

実施する際はとにかく鏡を見て集中する事が大切です。

何となく「非麻痺側の手を動かしていればいいんでしょ」と思っていてはいけません。

鏡に写った手が麻痺側の手と認識しているよう、麻痺側の手が動いていると錯覚できる事が大切です。

中にはミラーボックスに手を入れても何も感じないという方もいらっしゃりますが、否定的に捉えてしまうと脳が錯覚する事が出来ません。

忍耐強く実施する事が必要です。

そして効果には個人差もありますので自分に適しているかどうかは関わる理学療法士や作業療法士に確認をするのが良いでしょう。

まとめ

ミラーセラピーは、

・比較的新しい部類に入るリハビリテーションの方法

・上肢(手)運動麻痺改善の研究報告も多数

・実施方法は比較的簡単で自宅でも可能

今回の記事では触れていませんが下肢(足)の運動麻痺に対しても実施し改善がみられた報告もあります。

またミラーセラピーのみならずリハビリテーションの方法や選択肢は様々です。

その選択肢の一つとして今回はミラーセラピーについて解説しました。

よろしければぜひ試してみてくださいね!

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